叙事詩①~ムーランの詩

皆さんこんにちは、「songyun.org中国語教室」というコーナーを始めました。このコーナーでは中国に関する知識や中国語の勉強方法などをご紹介いたしますので、このウェーブサイトを有効にご利用していただき、この中国語教室が皆様のお役にたちますように心より願っています。

私も日々日本語と英語を勉強していきたいと思っておりますので、今後とも、よろしくお願いいたします。

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古来、中国文学の主流は一定の韻律(リズム)を踏む韻文~詩です。特に、自然の景色や友情などを歌う抒情詩が多いです。抒情詩と比べて、中国では叙事詩はあまり栄えませんでした。でも、前回ご紹介した「詩経」の「氓」をはじめ、民間の歌謡に由来する名作もたくさんあります叙事詩を通じて、昔の人々の生活や思いを知ることができます。

 今回は、「木蘭の詩」をご紹介します。これは南北朝時代の北朝の民間歌謡に由来するものとされています。中国史では、南北朝時代は、東晋が滅びる420年から始まり、隋が中国を再び統一する589年まで、中国の南北に王朝が並立していた時期を指します。その時、中国の国土は、北方には少数民族が支配した国が政権を掌握したり、分裂したりして国と国が対峙したりしていました。一方、南方には、今の南京を都として、4つの政権が林立していました。わずか170年間に、政権の交代が相次ぎ、国と国の間、北方と南方、それに、北朝と周りの少数民族の国々との間に、戦乱がずっと続いていた混乱した時期でした。国の政権が分裂すると、戦乱が続き、国民も戦争に巻き込まれ、不安な生活を余儀なくされます。そんな歴史背景で生まれた叙事詩、「木蘭の詩」をご紹介します。

  唧(jī)唧复唧唧,木兰当户织。不闻机杼(zhù)声,惟闻女叹息。问女何所思,问女何所忆。女亦无所思,女亦无所忆。昨夜见军帖(tiě),可汗(kè hán)大点兵。军书十二卷,卷卷有爷名。阿爷无大儿,木兰无长兄。愿为(wèi)市鞍(ān)马,从此替爷征。

 日本語訳:フーッ、ハーッ。絶え間なく部屋から漏れる音、それは、何とため息です。娘の木蘭(ムーラン)が戸口に向かって機(はた)を織っているはず。でも、部屋をのぞけば、機織りの音が聞こえず異常に静まりかえり、ムーランがボウとしているようです。

 「ムーラン、あなたは誰かを思っているんですか。それとも何かを思い出しているのでしょうか。」

 ムーランは答えました。「いいえ、違います。私は誰かを思っているのでも、何かを思い出しているのでもありません。今、とても悩んでいるのです。昨夜、私は町に張り出された軍隊からの告知を見て、可汗(こくかん)、国王が大規模な徴兵をしていることが分かりました。十二巻の召集令状はどの巻にも父親の名前がありました。しかし、父親は年を取っていて、いけません。父親には成人した息子もいません。私、ムーランには年上の兄もいません。どうしよう?色々と悩んだ結果、馬や馬具などをととのえ、私が父親に替わって出征しようと決心しました。」

 解説:ムーラン(木蘭)は詩の主人公であるこの若い女性の名前です。苗字は花といわれます。この詩は、北朝の一番最初の国、北魏が、蒙古族が支配した柔然の国との戦争で、父に代わって男装して出征し、手柄を立てた勇敢な女性、ムーランの叙事詩です。詩の内容から見ると、北魏の徴兵制度は家単位の制度なのでしょう。すなわち、家長の名前が記されますが、家長が出征できなければ、息子が替わっていくことができます。しかし、ムーランの家族には適齢の男の子がいませんので、ムーランは自分が男装して行くと決意しました。これから出征の準備をしなくてはいけませんね。さあ、次の節です。

  东市买骏马,西市买鞍鞯(jiān),南市买辔(pèi)头,北市买长鞭。旦辞爷娘去,暮宿黄河边。不闻爷娘唤女声,但闻黄河流水鸣溅溅(jiān jiān)。旦辞黄河去,暮至黑山头。不闻爷娘唤女声,但闻燕山胡骑(jì)鸣啾啾(jiū jiū)。

 日本語訳:ムーランは早速買い物に出かけました。東の市場で駿馬を買い、西の市場でくらとしたぐらを買い、南の市場でくつわをかい、北の市場で長い鞭を買って、出征のための道具を一通り調達しました。翌日の朝早く、ムーランは父親や母親に別れを告げて家を後にしました。夕方には黄河のほとりで野営しました。もはや両親が自分を呼ぶ声は聞こえず、ただただ黄河の水がとめどなく流れていく音だけ聞こえていました。そして、次の日の朝、更に黄河を離れ、夕方には黒山という山の麓に着きました。もはや両親が自分を呼ぶ声は聞こえず、ただただ敵軍の騎馬が悲しげに鳴いている声が聞こえるだけでした。

 解説:東の市場、西、南、北の市場を回ったということは、町中を探し回って、忙しく買い揃えた感じが表されていますね。普通の民家の娘なのに、少数民族が多く住む北方に生まれ育ったからなのでしょうか。ムーランは馬に乗れますね。家を出て戦場に向かいましたが、両親の呼ぶ声を偲ぶなど、もうホームシックでたまらない気持ちでいっぱいです。危険な戦場に赴いたムーラン、その運命はいったいどうなったのでしょうか。

  万里赴戎(róng)机,关山度若飞。朔(shuò)气传金柝(tuò),寒光照铁衣。将军百战死,壮士十年归。

 日本語訳:遠い彼方まで国境防備の戦闘に赴き、数々の要所を飛ぶような速さで次々と打ち破りました。荒野を渡る寒い風。兵士を鼓舞するドラの音が響き、寒々とした月の光が、兵士たちの硬い鎧を照らしています。兵士たちは戦を何度も何度繰り返し、大勢の人が戦死しました。そして、長年戦いようやく勝利し、生還した人もいます。勇士ムーランは帰ってきた幸運な一人です。

 解説:この節は、戦争の悲壮さを描いていますね。勇ましい兵士になったムーランは、運良く無事に名誉の帰還を果たしました。

  归来见天子,天子坐明堂。策勋十二转,赏赐百千强(qiáng)。可汗问所欲,木兰不用尚书郎,愿驰千里足,送儿还故乡。

 日本語訳:ムーランは戦場から無事帰還して、国王に謁見しました。国王は高い殿堂に座ってムーランと面会しました。ムーランは手柄によって、尚書郎という官位を得たほか、多くの褒美も授かりました。国王が「あなたは戦で大きな手柄をたてた。他に何かほしいものがある?」と聞くと、ムーランはこのように答えました。「私には尚書郎など高い地位はいりません。お願いですので、駿馬をお貸しください。そして、故郷へ帰らせてください」。

 解説:尚書郎は朝廷の官職名の一つです。この詩では、高い地位の意味で使われています。ムーランは父親に替わって出征した時、まだごく普通の一兵士でしたが、数年後、戦場から帰還する時に、国王と直接面会し、多数の褒美をもらえるほどの将官となりました。戦でどれほど勇敢なのか、想像できますよね。しかし、男装して戦争を乗り越えていても、昔の男尊女卑の時代では、官僚になることは想像できません。女の子でいたいムーランはそれを望んでもいません。ただ、一刻も早く故郷に帰りたいのです。

  爷娘闻女来,出郭相扶将(jiāng);阿姊(zǐ)闻妹来,当户理红妆;小弟闻姊来,磨刀霍霍(huò huò)向猪羊。开我东阁门,坐我西阁床。脱我战时袍,著(zhuó)我旧时裳(cháng)。当窗理云鬓(bìn),对镜帖(tiē)花黄。出门看火伴,火伴皆惊惶。同行十二年,不知木兰是女郎。

 日本語訳:ムーランの両親は娘が帰ってくるのを聞き、町の外に出て、互いに手に手をとって待っていました。お姉さんは妹が帰ってくるのを聞き、窓口に向かって慌てて化粧を直しました。そして、ムーランの弟は姉が帰ってくるのを聞き、さっそく包丁を研いで豚や羊に向かいました。久しぶりにお姉さんを迎えるために、最高のご馳走を用意しなくちゃ。 ようやく自宅に帰ってきたムーランは、家中を歩き回り、感激でいっぱいでした。最後に、少女時代の自分の部屋のベッドに腰掛け、やっと落ち着きました。少しくつろいだ後、長年着ていた軍服を脱ぎ、懐かしい女性の服に着替え、窓から射してきた光に向かって女性の髪形に整え、鏡に向かって、額に貼り付けるアクセサリーを丁寧につけました。化粧を終えた後、ムーランは自分を家まで送ってくれた戦友たちに別れを告げようと、家から出てきました。女性の装いに戻ったムーランを見て、仲間たちはみな驚きました。「なんだ!長年ずっと一緒にいたのに、ムーランが女性だとはちっとも気づかなかった!」

 解説:この一節では、ムーランが久しぶりに自宅に帰って、女性の身分に戻ったことや、家族からの暖かい歓迎、そして、ムーランの正体を知った仲間たちの驚きが表わされています。さあ、次は詩の最後の部分、まとめです。

  雄兔脚扑朔,雌兔眼迷离;双兔傍(bàng)地走,安能辨我是雄雌?

 日本語訳:ウサギの両耳を手に持って観察すれば分かるように、両足を力強く伸ばして、必死にもがくのは、オスに違いありません。また、両目を細めて、ぼんやりしているのは、メスです。こうして手に取る時、オスとメスは区別しやすいのですが、オスとメスのウサギが大地を走っている時は、おそらく誰でもどっちがオスかどっちがメスか分からないのでしょう。

 解説:きれいに装って静かにいる時には、すぐに女性だと分かるなど、男女の性別の差がとても分かりやすいです。しかし、戦場にいるムーランは、まるで男子と同じように、いやおそらく男子よりもいさぎよく振舞ったことから、男装した女子だという事がずっとバレずに済んだんですね。

 ムーランの物語は、この詩によって、この1500年あまり幅広く中国で伝わってきました。ムーランは、中国人なら誰でも知っているヒロインです。1998年、この叙事詩を元にし、ディズニー映画「ムーラン」が作られ、中国や日本でも公開されました。また、その他数回も映画化されています。興味をお持ちの方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

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